
泥と笑顔のブランド哲学──マザーハウス山口絵理子、世界を変える現場主義」
はじめに──“挑戦する理由”を思い出させてくれた講演
昨日、ある講演に心を揺さぶられた。 登壇者は、株式会社マザーハウス代表取締役・山口絵理子さん。
「途上国から、世界に通用するブランドを作る」 そんな無謀とも思える目標を掲げ、現場に身を投じ、すべての工程に泥臭く関わり続けてきた彼女の言葉には、空虚な理念ではなく、行動から生まれた説得力があった。
涙を流した人もいた。私もその一人だった。 彼女の姿に、自分の小ささと、志の薄さを痛感した。
この記事では、山口絵理子という人物の生き様、起業の経緯、そしてマザーハウスというブランドの軌跡を辿りながら、「現場から世界を変える」という壮大なビジョンを深掘りしていく。
第1章:不登校の少女が“世界の貧困”と向き合うまで
山口絵理子さんは、1981年、埼玉県に生まれた。 家庭環境に恵まれていたわけではなく、いじめが原因で中学時代は不登校。 しかし、柔道との出会いが彼女の運命を変える。
競技としての柔道ではなく、「生きる支え」としての柔道だった。 その後、慶應義塾大学総合政策学部にAO入試で進学。 「社会の役に立ちたい」 その一心で、開発学・国際協力を学び、ワシントンDCにある国際開発の現場でインターンを経験。
しかし、机上の議論と現場の距離に違和感を覚えた彼女は、アジア最貧国の一つ・バングラデシュへの留学を決意する。 BRAC大学院に入学し、スラム街や縫製工場での日々が始まった。
第2章:バングラデシュで見た“才能と搾取”のリアル
山口さんが目の当たりにしたのは、貧困のなかで生きる人々の、強さと美しさだった。
彼らは無知でも無能でもない。教育と環境、そして「機会」がないだけ。 特に縫製業の工場では、高い技術を持つ職人が、劣悪な労働環境で搾取されていた。
ここで山口さんは、衝撃的な問いにぶつかる:
“なぜ、途上国の人々は安いモノづくりでしか生きられないのか?”
この違和感こそが、後の「マザーハウス」誕生のきっかけになる。
彼女の答えは明快だった── 「途上国から“高品質で美しい”商品を生み出し、“世界に通用するブランド”を作る」
第3章:26歳、資金ゼロからの創業と裏切り
2006年、26歳の山口絵理子は「マザーハウス」を創業する。 拠点は、かつて自分がいたバングラデシュ。
たった一人でのスタートだった。 当時のバングラデシュは政情不安もあり、治安も良くなかった。 にもかかわらず、彼女は「リキシャ」で市場を走り回り、地元の工場と交渉し、最初のバッグ製品を作り上げる。
しかし、最初に契約した工場は、最初の納品後に連絡が途絶え、設備も従業員もすべて消えた── いわゆる”夜逃げ”である。
どん底のスタートだった。
それでも諦めず、信頼できる職人を一人ひとり集め、独自のサプライチェーンを現地で作り上げていった。
第4章:ブランド哲学──“途上国×高品質×物語”
マザーハウスの最大の特徴は、製品の裏に「物語」があること。
- バングラデシュのジュート(麻)
- ネパールの手織り布
- スリランカの宝石
- ミャンマーやインドネシアの天然皮革
単なる素材の話ではない。 その土地の文化、職人の生活、女性の雇用、子どもの教育…… 製品を買うことが、すなわち「未来を買う」ことになる仕組みが緻密に設計されている。
山口さんは言う:
「支援じゃない。ビジネスとして、途上国の人々と対等に生きていきたい」
この想いが、多くの共感を呼び、今や全国に40店舗以上を展開する企業へと成長。
2021年には、アパレルブランド「ERIKO YAMAGUCHI」を立ち上げ、“途上国ファッション”の新たな挑戦にも踏み出した。
第5章:世界へ──次なる挑戦はアメリカ市場
山口さんの挑戦は止まらない。 2025年、いよいよアメリカ市場へ乗り出す。
- ニューヨーク、ロサンゼルスでのポップアップ展開
- 米国人クリエイターとのコラボレーション
- ブランドとしての“物語性”と“社会性”の融合による発信
ここでも彼女は、「会社」ではなく「人」を前面に出す。 山口絵理子個人としての“覚悟”を、発信力として使っていくという。
「正直、怖いです。でも、自分が信じたやり方で、どこまで通じるか試したい」 そう笑った姿に、迷いはなかった。
結論:私たちは、誰の“現場”に寄り添えているか?
昨日の講演を終えて、改めて思う。
「現場を見る」ことの大切さ。
数字や理屈では語れないリアル。 支援ではなく、対等な経済活動。 美しい商品を生むために、泥にまみれて、汗をかいてきた彼女の背中は、言葉以上の説得力をもっていた。
私たち一人ひとりにも問われているのではないか。
- 目の前の現場を、見ているか?
- ただの共感にとどまらず、行動できているか?
- “誰かのために”を、自分のビジネスで実現できているか?
山口絵理子さんは、希望の形を提示してくれた。 泥と、笑顔と、情熱と。 それらが混ざり合ったとき、本当の「ブランド」が生まれるのだ。
最後に:あなたにできる一歩とは?
このブログを読んで、少しでも心が動いたなら。 今日、ひとつだけ「誰かの現場」に目を向けてみてほしい。
- 商品の“生まれた場所”を調べてみる
- マザーハウスの店舗に足を運んでみる
- あるいは、自分の夢を言葉にしてみる
その小さな一歩が、世界を変える一歩になるかもしれない。
なぜなら、私たちは皆、“物語”を持っている。
そして今、あなた自身の物語が、誰かの希望になる可能性だってあるのだから。
















