ゴールデンウィーク旅行が「贅沢品」になりつつある日本 ~その背景と変わる休暇の過ごし方~
導入
大型連休・ゴールデンウィーク(GW)に突入しました。しかし近年、「GWに気軽に旅行へ行くのは難しくなった」と感じる人が増えています。かつては連休といえば観光地へ出かけるのが定番でしたが、今や旅行は一部の人にとって贅沢品とも言える存在になりつつあります。その背景には、現在の日本社会が抱える経済的な変化や人々の意識の変容が関係しています。本記事では、なぜ旅行が贅沢になってしまったのか、その社会背景と世代ごとの現実、変わりゆく「贅沢」観や旅行の価値観、そして旅行を諦めた人々のGWの過ごし方について考察します。
なぜ旅行が「贅沢品」になったのか – 社会的背景
まず、旅行費用の高騰という現実があります。近年の日本では物価上昇が続いており、消費者物価指数の上昇によって宿泊費や交通費も軒並み値上がりしています。企業の値上げやエネルギー価格高騰の影響で、旅行関連サービスの価格も上昇傾向にあります。さらに追い打ちをかけるのが所得の伸び悩みです。日本人の平均給与はこの数十年ほとんど増えておらず、むしろ近年はインフレに賃上げが追いつかない状況です。実際、2022年度は名目賃金が約1.9%上昇したものの物価は3.8%も上昇し、実質賃金は1.8%減少しましたreuters.com。平均年収自体も1990年代後半と比べて横ばいか減少傾向で、20代後半の平均年収は約389万円と決して高い水準とは言えませんnli-research.co.jp。収入が増えない一方で社会保険料や通信費など固定支出が増えており、可処分所得に余裕がない人が増えています。このように**「収入は増えないのに出費は増える」**状態では、旅行の優先度が下がってしまうのも無理はありません。
また、円安も旅行を贅沢にしている要因の一つです。近年の円相場は歴史的な円安水準にあり、1ドル=150円前後まで円が弱くなった時期もありました。円の価値が下がると海外旅行は割高になります。例えば同じドル建ての旅行でも、数年前より日本円で支払う額が増えてしまうのです。円安と物価高は輸入品や燃料費を通じて国内旅行費用にも跳ね返り、航空券の燃油サーチャージの高騰やレンタカー・ガソリン代の上昇など、旅費全般に影響を与えていますjtbcorp.jp。
さらに、宿泊費・交通費の高騰も無視できません。観光需要の回復やインバウンド増加によりホテルの稼働率が上がった結果、宿泊料金も以前より高めに設定されるケースが増えています。特にGWのような繁忙期は価格が跳ね上がりやすく、直前に予約しようとしても「2名で1泊5万円以下のホテルが見つからない」という声もあるほどですameblo.jp。実際、GW期間中は1泊あたり10万円を超える高級ホテルも珍しくなく、平均的な宿でも平時より大幅に割高になりますameblo.jp。交通費も同様で、新幹線の繁忙期料金導入や高速道路料金、航空運賃の上乗せなど、連休期間は移動コストも上がりがちです。
こうした背景から、「GWに旅行に出る」という行為自体が経済的ハードルの高いものになっています。旅行大手JTBの調査でも、2025年GWの国内旅行者数は前年よりやや減少すると見込まれています。物価高や家計の事情で旅行を控える傾向が見られ、平均旅行費用も高止まりしている状況ですjtbcorp.jp。一方で、旅行に踏み切った人たちは高い費用を払ってでも出かけているため、総旅行消費額自体は増加傾向にありますdiamond.jp。例えば2024年のGWでは総旅行者数2,332万人とコロナ禍以降でかなり回復しましたが、その分一人当たりの支出も上昇し、特に海外旅行は平均26万9,000円(前年比104.7%)と過去最高水準に達したとも報じられましたdiamond.jp。旅行できる人とできない人の二極化も進んでおり、旅行は「誰もができる娯楽」から「できる人にはできる贅沢」へと性格を変えつつあるのです。
若者・子育て世代・シニア層…それぞれの感じる負担
旅行が贅沢になった現状は、世代ごとに異なる形で表れています。それぞれの世代が抱える負担感やリアルな声を見てみましょう。
- 若者世代(主に20~30代): バブルも好景気も知らない「失われた世代」の若者にとって、連休の旅行は懐事情的にハードルが高くなっています。社会人なりたての給与水準は月手取り20万円前後が一般的でnli-research.co.jp、家賃や奨学金返済、日々の生活費を差し引くと旅行に回せるお金は限られます。友人同士で旅行を計画しようにも、「仲間の経済状況を考えると高額な旅行には誘いづらい」という現実もありますnli-research.co.jp。結果として「旅行に行きたい気持ちはあっても余裕がない」という声が多く、GWはアルバイトや趣味に充てて過ごす若者も少なくありません。
- 子育て世代(30~40代): 家族旅行となると出費は一気に嵩みます。大人2人に子どもが加われば交通費も宿泊費も倍増し、たとえば国内旅行でも家族4人で数日出かければ十数万円から数十万円の出費になることも珍しくありません。教育費や住宅ローンなど出費が多い子育て世代にとって、これは大きな負担です。また、小さな子ども連れで人混みや長時間移動を強いるのは体力的・精神的にも大変で、「頑張って贅沢して行っても疲れるだけでは?」という懸念もあります。結果、GWは実家に帰省して親に孫の顔を見せる程度に留めたり、近場の公園・レジャー施設で日帰りの息抜きをしたりする家庭が多いようです。それなら宿代もかからず、子どもにとっても負担が少ないからです。
- シニア層(60代以上): 定年後のシニアにとって旅行は本来ゆとりある楽しみの一つですが、年金生活では物価高の影響が直撃するため贅沢は慎重になります。特に昨今は食料品や光熱費が上がり、限られた年金から旅行費用を捻出するのが難しいケースもあります。「老後資金をできるだけ減らしたくない」という思いから、高額な旅行は控える傾向が強まっています。また、コロナ禍で外出を控えた影響もあり、人混みに出ること自体に不安を感じる高齢者もいます。その一方で元気なアクティブシニア層は、混雑するGWを避けて平日に旅行するといった知恵も働かせています。つまり、旅行自体を完全に諦めたわけではなく、「ピーク時に無理して行かない」選択をするケースが増えているのです。
「贅沢=悪」なのか?変わりゆく旅行の価値観
経済状況の変化に伴い、人々の贅沢に対する意識や旅行観の多様化も進んでいます。日本には「贅沢は敵だ」という戦時中のスローガンがあったように、贅沢を慎む文化的風土がありますが、現代でも似たような心理が広がっている側面があります。例えば、ファイナンシャルプランナーの藤川太氏は「GWにわざわざ旅行に出かけるお金持ちはあまりいません」と指摘し、連休中に高いお金を払って旅行をする人はお金が貯まらないとまで言いますpresident.jp。極端な意見ではありますが、「休みだからといって高額な旅行をする必要はない」という考え方には多くの共感が集まっています。実際、ネット上でも「わざわざ混んでるときに高い旅行行く必要ないよね!」ameblo.jpといった声が散見され、無理に贅沢をすることへの疑問や、倹約志向の高まりが感じられます。
しかし一方で、「贅沢」の捉え方自体が変わってきているとも言えます。かつては高価な旅行や豪華な体験こそが贅沢の代名詞でしたが、今の時代、人々が感じる贅沢はもっと多様化しています。ある人にとっては有名観光地への海外旅行が何よりの贅沢かもしれませんが、別の人にとっては家でゆっくり好きなことをする時間こそ最高の贅沢かもしれません。「家で過ごす時間こそ自由で贅沢」という気づきを得たという声もありameblo.jp、高いお金を払わなくとも得られる充実感に目を向ける人が増えています。また、旅行するにしても価値観は多様で、「高くてもラグジュアリーな体験を一度してみたい」という人もいれば、「質素でもいいから何度も旅に出たい」という人、「遠出はせず近場で非日常を味わいたい」という人など様々です。旅行の目的や意味づけが人それぞれに細分化されてきており、「旅行しないという選択肢」すらポジティブに捉えられるようになりました。
旅行を諦めた人たちのGWの過ごし方
実際、経済的負担などからGWの旅行を見送った人々は、この連休をどのように過ごしているのでしょうか。贅沢な旅行に行かなくても、工夫次第で充実した休暇を楽しむ方法はたくさんあります。旅行を諦めた人たちの代表的なGWプランをいくつか紹介します。
- 近場でレジャーを楽しむ: 遠出はせず、自宅から行ける範囲のレジャー施設や公園で過ごすスタイルです。地元のイベントに参加したり、近隣の景勝地を巡ったりする「マイクロツーリズム」が見直されています。移動にかかるお金も時間も節約でき、身近な場所で季節感を味わえるのが魅力です。たとえば家族連れなら、お弁当を持ってピクニックに出かけたり、話題の美術館や科学館に足を運んだりしてプチ旅行気分を味わうケースが多いようです。
- 帰省して家族団らん: 旅行代わりに実家や田舎に帰省する人も大勢います。親元に顔を出せば宿泊費もかかりませんし、何より普段離れて暮らす家族とゆっくり団らんできるのはかけがえのない時間です。渋滞や混雑はある程度避けられないものの、「温泉地に行かなくても実家でのんびりするだけで十分リフレッシュできる」という声もあります。特に子育て世代では、祖父母に子供を会わせる良い機会にもなり、一石二鳥の過ごし方と言えるでしょう。実際に「GWは実家に1泊して親の顔を見に行く」という計画を立てている人も見られますameblo.jp。
- 自宅で休養&趣味三昧: 思い切って「どこにも行かない贅沢」を味わう人もいます。あえて旅行の計画を入れず、自宅で好きなだけ寝坊をしたり、溜まっていた録画番組や配信ドラマを一気見したり、本を読んだりと自由気ままに過ごすのです。普段は忙しくてできない料理やDIYに挑戦する人もいるでしょう。「家中心に過ごすのも心の平安を得られるかも」ameblo.jpという考え方で、家時間を充実させる傾向です。お金をかけずともリラックスして英気を養えるため、「これはこれで贅沢な休み方だ」と満足する声も多く聞かれます。
このように、人それぞれが自分なりのGWの楽しみ方を見つけています。「旅行に行かなければGWが台無し」という時代ではもはやなく、身近な楽しみを追求する休暇も市民権を得たと言えるでしょう。
結論:身近な幸せにも目を向けて前向きに
ゴールデンウィークに旅行が贅沢品になりつつあるという現象の裏側には、日本の長年の経済停滞や物価上昇といった社会構造の課題が横たわっています。所得の伸び悩みや円安による生活コスト増など、一朝一夕には解決しない問題が、私たちの日常の過ごし方にも影を落としているのは確かです。旅行が「行きたくても行けないもの」になってしまうのは残念なことですが、そこから見えてくる課題に目を向け、経済の底上げや賃上げなど構造的な改善を社会全体で考えていく必要があるでしょう。
とはいえ、悲観的になるばかりではなく、この状況だからこそ得られた気づきや新たな幸せの形もあります。遠出ができなくても、身近な場所で季節を感じたり、家族とじっくり向き合ったり、自分の時間を大切にしたりする中で、小さな幸せを再発見する人も増えています。贅沢な旅行だけが幸せの形ではなく、日常の延長線上にも豊かな瞬間は存在します。経済的に厳しい今だからこそ、無理のない範囲で身近な楽しみを充実させることの大切さに気付かされます。
このGW、たとえ豪華な旅行に行けなくても落胆する必要はありません。自分なりのペースで休暇を楽しみ、英気を養うことが何より大切です。大きな贅沢はできなくても、身の丈に合った幸せをかみしめる——そんな前向きな視点で、この連休を豊かな時間にしてみてはいかがでしょうか。














