「今までこんなことはなかった」が増える日本――変わる豪雨とこれからの治水・水害対策

変わってるのかな

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「今までこんなことはなかった」が増える日本――変わる豪雨とこれからの治水・水害対策

はじめに――関東の台風被害に、心よりお見舞い申し上げます

今回の台風25号と大雨によって被害を受けられた皆さまに、心よりお見舞い申し上げます。

また、お亡くなりになられた方々に謹んでお悔やみを申し上げるとともに、被災された地域の一日も早い復旧・復興を願っています。

2026年9月22日時点でも、国土交通省は台風25号による被害状況を継続して公表しています。台風が通り過ぎたからといって災害が終わるわけではありません。増水した河川、緩んだ地盤、道路やライフラインへの影響など、しばらく警戒しなければならない状況が続きます。

今回の災害を見ながら、私は一つのことを強く感じました。

「雨の降り方そのものが、以前とは変わってきているのではないか」

ということです。

災害が発生した地域から聞こえてくる、

「長年ここに住んでいるが、こんなことはなかった」

「まさかここまで水が来るとは思わなかった」

という趣旨の言葉。

もちろん、一つの災害だけを取り上げて、その原因をすべて気候変動に結びつけることはできません。

しかし、日本の治水を考えるうえでは、過去の経験だけを基準にして「ここまでは大丈夫だろう」と考えること自体を見直す時期に来ているのではないでしょうか。

国土交通省自身も、気候変動を踏まえた「流域治水プロジェクト2.0」において、2040年頃には降雨量が約1.1倍、流量が1.2倍、洪水発生頻度が2倍に増加するとの見通しを前提に対策を進めています。

つまり、「雨が変わってきた」という感覚は、単なる印象として片付けるべき話ではありません。

これからは、

「過去に大丈夫だったか」ではなく、「これから起こり得る雨に耐えられるか」

という視点で、川、堤防、ダム、下水道、住宅、都市計画、そして私たち自身の暮らしを考える必要があります。

日本の川は、雨が降ると状況が一変しやすい

日本で水害を考えるとき、忘れてはいけないのが国土の特徴です。

山が多く、平野が限られ、その狭い平野部に人口や住宅、企業、道路、鉄道などが集中しています。

上流で降った雨は川へ集まり、下流へ流れていきます。

普段は穏やかに見える川でも、流域全体で大量の雨が降れば状況は短時間で変化します。

ここが非常に怖いところです。

「家の周辺ではそれほど降っていない」

からといって安心できるとは限りません。

自宅付近の雨が弱くても、上流で猛烈な雨が降っていれば、時間差で河川の水位が上昇する可能性があります。

さらに都市部では、河川の氾濫だけではありません。

短時間に排水能力を超える雨が降れば、下水道などで処理しきれず、道路や住宅地が浸水する「内水氾濫」も問題になります。

したがって、これからの防災では、

「自分の家の上に何ミリ降っているか」だけではなく、「流域全体にどれだけの水が入っているのか」を見る発想が必要です。

「100年に一度」という言葉をどう受け止めるか

大雨災害の報道では、「数十年に一度」「100年に一度」といった表現を耳にすることがあります。

ところが私たちの感覚としては、

「最近、何年かに一度のように大きな災害が起きていないか」

と感じることがあります。

重要なのは、100年に一度という表現を、

「一度発生したら次の99年間は来ない」

と理解しないことです。

そして、もう一つ考えなければならないのが、治水計画の前提となる雨そのものが変化していく可能性です。

国土交通省が「流域治水プロジェクト2.0」を進めている背景にも、将来の降水量増大を踏まえ、過去の降雨実績だけではなく気候変動の影響を治水対策に組み込む必要性があります。

つまり、これから必要なのは、

「過去100年間に何が起きたか」

だけを見る治水ではありません。

「これから数十年間に何が起こり得るか」を考える治水です。

一番気になるのは「川の水位より低い住宅地」

今回の映像などを見ながら、改めて気になったことがあります。

それは、

河川の水面や堤防付近より低い場所に、多くの住宅や建物が存在していることです。

もちろん、これは簡単に「そこに住まなければよい」と言える問題ではありません。

歴史的な経緯があります。

仕事があります。

土地や住宅という個人の大きな財産があります。

家族や地域とのつながりもあります。

都市全体がすでに形成されている場所もあります。

したがって、一気に住宅を移転させることなど現実的ではありません。

しかし一方で、危険性が高い場所に住宅を増やし続けてよいのか、という問題は別です。

ここは今後、かなり真剣に考える必要があると思います。

治水だけでなく「土地の使い方」を変える

私は、これからの水害対策で非常に重要になるのが、

「水を完全に封じ込める」だけではなく、「水があふれる可能性を前提として街を設計する」こと

だと考えます。

実際、国土交通省の流域治水政策も、河川整備だけを対策としているわけではありません。

雨水貯留・浸透施設、土地利用規制、利水ダムの事前放流、水害リスクを踏まえたまちづくり・住まいづくりなどを組み合わせ、国、都道府県、市町村、企業、住民が流域全体で取り組む考え方になっています。

これは非常に重要な方向転換だと思います。

堤防を高くする。

川幅を広げる。

川底を掘る。

ダムを造る。

調節池を造る。

もちろん、どれも重要です。

しかし、これだけではなく、

田んぼに一時的に雨水をためる。

公園を貯留空間として利用する。

学校の校庭や公共施設に雨水貯留機能を持たせる。

住宅や商業施設で雨水タンクを利用する。

舗装を透水性のあるものにする。

森林や湿地の保水機能を生かす。

危険性の高い場所への新規住宅開発を慎重にする。

安全な地域へ長期間かけて居住を誘導する。

建物そのものを浸水に強くする。

こうした対策を何重にも組み合わせていく必要があります。

「抜本的対策」は巨大な堤防一つではない

「もっと抜本的な治水対策はないのか」

災害を見るたびにそう思います。

しかし調べていくと、これからの抜本策とは、おそらく一つの巨大な施設を造れば完成するようなものではありません。

むしろ、

流域そのものを巨大な治水施設として考えること

ではないでしょうか。

山。

森林。

田畑。

ダム。

ため池。

遊水地。

公園。

道路。

下水道。

河川。

堤防。

住宅。

企業。

公共施設。

これらをバラバラに考えるのではなく、

「降った雨を、どこで受け止め、どこでため、どこから流し、万一あふれた場合にどこへ逃がすのか」

という一つのシステムとして考える。

これこそ「流域治水」という考え方の重要なところだと思います。

国土交通省も全国の一級水系などで、河川整備に加え、雨水貯留浸透施設、土地利用規制、ダムの事前放流などを含めた流域治水プロジェクトを進めています。

住宅政策も「水害に強い家」へ変えていく

もう一つ踏み込んで考えたいのが住宅です。

地震については、日本の住宅は長年にわたり耐震性能を高めてきました。

それと同じように、

これからは「耐水害住宅」という発想をもっと広げてもよいのではないでしょうか。

たとえば浸水リスクのある地域では、

電気設備を高い位置へ配置する。

給湯設備をかさ上げする。

重要設備を1階に集中させない。

1階部分を浸水しても復旧しやすい構造にする。

住宅そのものをかさ上げする。

止水板を設置しやすい構造にする。

垂直避難できる階を確保する。

こうした考え方があります。

もちろん費用がかかります。

だからこそ個人任せにするのではなく、一定以上の水害リスクがある地域では、改修への補助や税制上の支援なども含めて社会全体で考えていく価値があります。

新しく家を買う人には「ハザードマップを見る」を常識に

これは今日からできることです。

住宅を購入するとき、

駅から徒歩何分か。

学校は近いか。

スーパーはあるか。

日当たりはどうか。

価格はいくらか。

こうした条件を確認する人は多いでしょう。

そこに、

「この土地は何メートル浸水する可能性があるのか」

を必ず加えたいと思います。

国土交通省のハザードマップポータルでは、洪水、内水氾濫、高潮、津波などの浸水想定区域や浸水深、土砂災害警戒区域、土地の成り立ち、避難場所などを地図上で確認できます。

特に重要なのは、自宅だけを見るのではなく、

自宅から避難所までの道路。

家族の勤務先。

子どもの学校。

高齢の親の家。

普段利用する地下道。

近くの川。

アンダーパス。

なども一緒に確認することです。

自宅が浸水しなくても、避難経路が先に水没すれば移動できなくなるからです。

「避難」は水が来てからでは遅い

大雨災害で最も難しい問題の一つが避難のタイミングです。

外を見ても普通。

雨もそれほど強くない。

川もまだ大丈夫そう。

だからもう少し様子を見る。

ところが、状況が一気に変わる。

そのときには道路が冠水し、車が使えず、徒歩での避難も危険になる可能性があります。

だからこそ重要なのは、

「危なくなったら逃げる」のではなく、「危なくなる前に逃げる」ことです。

高齢者、乳幼児がいる家庭、障害のある方、ペットを連れて避難する家庭などは、移動に時間が必要です。

「空振りでもいいから早めに動く」

という考え方を家庭のルールにしておくことが、命を守ることにつながります。

わが家の「水害タイムライン」を作る

おすすめしたいのが、家族版の防災タイムラインです。

たとえば大雨や台風が予想されたら、

3日前

台風進路と予報を確認。
モバイルバッテリーを充電。
車の燃料を確認。

前日

ハザードマップを再確認。
飲料水や非常食を準備。
ベランダや庭の飛びやすい物を片付ける。
重要書類を高い場所へ移動。

大雨警戒時

河川水位と自治体情報を確認。
高齢者や子どものいる家庭は早めの移動を検討。

避難が必要になる前

迷わず安全な場所へ移動。

こうしたルールを災害が起きる前に決めておく。

人間は危険が迫ると、

「まだ大丈夫だろう」

と思ってしまうことがあります。

事前にルールを作る意味は、その場で判断する項目を減らすことにあります。

「治水に100%」は難しいからこそ、多重防御が必要

自然の力を完全に抑えることは難しい。

どれほど立派な堤防を造っても、それを超える洪水が絶対に発生しないとは言えません。

だからこそ、

第一防御――ダム、遊水地、森林などで水をためる。

第二防御――河川や堤防で安全に流す。

第三防御――街中で雨水をためる。

第四防御――土地利用によって被害を受ける人や建物を減らす。

第五防御――住宅を浸水に強くする。

第六防御――早期避難によって命を守る。

という多重防御が必要なのだと思います。

どれか一つに100%を求めるのではなく、

一つが突破されても、次の対策で被害を小さくする。

この考え方が重要です。

災害後に元へ戻すだけではなく「次は強くする」

被災地では今後、復旧・復興が進められていきます。

ここでも重要なのは、

単純に「元通り」にするだけでよいのか

という問題です。

同じ場所に同じ道路を造り、同じ護岸を造り、同じ住宅を再建すれば、将来、より大きな雨が降ったときに再び被害を受ける可能性があります。

復旧するときこそ、

道路を少し高くできないか。

排水能力を増やせないか。

遊水空間を確保できないか。

住宅をかさ上げできないか。

重要施設をより安全な場所へ移せないか。

と考える機会になります。

災害前より災害に強い地域にする。

いわゆる「Build Back Better」の発想です。

「今までこんなことはなかった」を防災の出発点にする

今回、私が最も心に残ったのは、やはり、

「今までこんなことはなかった」

という言葉です。

この言葉を聞くたびに思います。

これからの防災で一番危険なのは、

「今まで大丈夫だったから、これからも大丈夫」

という思い込みなのかもしれません。

川は昨日まで静かだった。

50年間浸水しなかった。

祖父母の代からここに住んでいる。

それは大切な経験です。

しかし、未来の安全を保証するものではありません。

むしろ、

「今まで起きなかったことも起こるかもしれない」

という前提で準備する。

これが、気候が変化する時代の防災なのだと思います。

おわりに――治水は「川の工事」から「国土の設計」へ

私は今回の関東の台風被害を見ながら、日本の治水について改めて考えました。

もちろん国土交通省、都道府県、市町村などは、これまでも堤防、ダム、遊水地、河川改修、下水道などさまざまな対策を続けています。

そして現在は、国も河川だけでなく流域全体で水害を軽減する「流域治水」を進めています。

だから私は、

治水を「川の問題」だけにしないこと

が、これからさらに重要になると思います。

川だけではない。

山も関係する。

森林も関係する。

田畑も関係する。

道路も公園も学校も関係する。

住宅政策も関係する。

都市計画も関係する。

そして、そこに暮らす私たち自身も関係する。

つまり治水とは、これからの日本で、

「どのような国土をつくり、どこに住み、どう水と共存していくのか」

という大きなテーマなのだと思います。

雨を止めることはできません。

台風を消すこともできません。

しかし、

水をためることはできる。

安全に流すこともできる。

危険な場所への住宅集中を少しずつ変えることもできる。

家を強くすることもできる。

情報を早く届けることもできる。

そして、早く逃げることもできます。

今回の災害を「大変だった」で終わらせず、次の災害で失われる命を一つでも減らす。

そのために必要なのは、過去の常識に未来を合わせるのではなく、

変わっていく雨に合わせて、治水も、街も、住まいも、私たちの意識も変えていくこと。

「今までこんなことはなかった」という言葉を、

次の災害の後にも繰り返さないために。

今こそ、日本の水害対策をもう一段先へ進める時なのではないでしょうか。

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