
日銀利上げを支持する60歳の本音――物価高と円安、AIバブルへの不安
カテゴリ:経済・家計・投資|2026年9月26日
日銀が利上げをした。私は今回の判断を支持している。
もちろん、うれしいニュースとして受け止めているわけではない。金利が上がれば、借り入れのある家計や企業の負担は重くなる。景気が十分に強いとは言えない時期に、経済を冷やす心配もある。私自身、住宅ローンを抱え、一人で会社を経営している。金利上昇を、遠くの出来事として眺められる立場ではない。
それでも、買い物をするたびに感じる物価高と、円安がさらに輸入価格を押し上げる不安を考えると、今回は仕方がないのではないかと思う。
日銀は9月18日の金融政策決定会合で、短期の政策金利を1.25%程度に引き上げる方針を決めた。新しい方針の適用は9月24日からだ。日銀自身も、中東情勢による景気の弱さを認めながら、原油高、円安、AI関連需要などが物価に及ぼす影響を挙げている。boj.or.jp
今回の利上げをどう見るか。60歳の私には、ニュースで語られる「賃金と物価の好循環」とは少し違う景色が見えている。
「給料も上がるから大丈夫」が当てはまらない
物価が上がっても、それ以上に給与が増えるなら、家計は何とか対応できるかもしれない。しかし、私は60歳だ。これから毎年の昇給を期待できるわけではない。
食料品や日用品、光熱費が上がる一方で、入ってくるお金が同じなら、使えるお金は確実に減る。「賃上げが進んでいる」という記事を読んでも、それが自分の財布に届くとは限らない。現役世代の中にも、賃上げの恩恵が小さい人や、賃金の伸びが物価に追いついていない人はいるだろう。
だから私は、物価が少し落ち着いてくれたほうが、個人的には助かる。
ただし、ここは正確に言っておきたい。私が望むのは、失業が増え、企業の売上が縮み、賃金まで下がるような深刻なデフレではない。日々の生活費の上昇が穏やかになり、少なくとも「去年と同じものを買うのに、また余分なお金が要る」という状態から抜け出したいのだ。
物価上昇率が下がることと、物の値段そのものが下がることも違う。 利上げをした翌日にスーパーの値札が戻るわけではない。それでも、値上がりの勢いを抑えることには意味がある。
利上げが必要だと思う理由は、円安にもある
日本は、原油や多くの原材料を海外に頼っている。円安が進めば、海外で同じ価格の商品を買うにも、より多くの円が必要になる。その負担は、燃料代や電気代、食品、輸送費を通じて、暮らしに広がっていく。
金利を上げれば必ず円高になる、というほど為替は単純ではない。円相場は米国の金利、世界の景気、投資家の期待などにも左右される。今回の利上げだけで円安が止まると断言するつもりはない。
それでも、国内の物価上昇を放置し、円安による輸入価格の上昇も受け続けるわけにはいかない。日銀の決定文を読むと、円安や原油高が企業間の価格を押し上げ、その影響が消費者にも及び始めているという認識が示されている。日銀は、2026年度後半には消費者物価の上昇率が2%をはっきり上回る可能性も見込んでいる。boj.or.jp
景気が弱いから金利を上げない、という考えにも理由はある。しかし、物価高で家計の購買力が削られ続ければ、それもまた消費を冷やす。利上げの痛みと、利上げを見送る痛み。その両方を見て、今回は前者を選ぶべきだと私は考えた。
支持はする。でも、利上げを急ぎすぎてほしくない
利上げを支持すると書いたが、次もその次も機械的に上げればよいとは思わない。
私のような一人会社にとって、景気の減速は売上に直結する。お客様が支出を控え、企業が新しい仕事への予算を絞れば、借入金利が上がる以上に厳しい。住宅ローンを抱える人にも、金利の種類や契約条件によっては返済負担が増える。
金利には、経済を落ち着かせる働きと、必要な投資まで鈍らせる働きがある。効き具合を見ずに続ければ、薬が強すぎることもある。
今回の決定には反対した審議委員もいた。景気は必ずしも強くなく、この時点での利上げは適切ではない、という懸念だ。私は結論こそ異なるが、その心配は軽く扱えないと思う。日銀も今後の利上げの時期やペースについて、経済と物価の動きを点検しながら判断するとしている。boj.or.jp
必要なのは「利上げ賛成派」と「反対派」の勝ち負けではない。物価が落ち着くまでの間に、仕事と家計がどれほど耐えられるかを、丁寧に確かめることだ。
年10%近い社債を見て、お金の奪い合いを感じた
もう一つ、最近気になっているニュースがある。AI投資のための巨額の資金調達だ。
報道では、ソフトバンクグループがOpenAIへの投資資金を調達するため、大規模な外貨建て社債を計画し、ドル建て債の当初の利回りとして年9~10%程度が示された。これは日本の政策金利や、一般的な円建て社債の利率とは別の話である。通貨も信用リスクも異なるため、単純に並べて「日本の金利が10%になった」と読むことはできない。ft.com
それを踏まえても、私は数字の大きさに驚いた。
AIを開発し、動かすには、半導体だけでなく、データセンター、電力、冷却設備、通信網が要る。先に巨額のお金を使い、その後で事業から回収する。成長の可能性が大きい一方、投資競争に参加する企業は、資金を集め続けなければならない。
私はそこに「お金の奪い合い」を感じる。実際、AI向け設備投資が社債発行を増やしているという分析もある。第一ライフ資産運用経済研究所
高い利回りの社債を発行できることは、投資家が資金を出したがっている表れでもある。しかし、発行する側から見れば、それだけの金利を負担してなお、投資に見合う利益を出す必要がある。利払いを上回る成果がいつ、どこから生まれるのか。AI投資のニュースを見るとき、私はその問いを忘れたくない。
AIには実需がある。それでもバブルは起こり得る
私はAIそのものを「中身のない流行」だとは思っていない。文章作成、調査、プログラミング、顧客対応、設計支援など、実際に使える場面は増えている。私自身も仕事でAIを使う。時間が短縮され、以前なら一人では難しかったことに取り組める実感もある。
だから、AIへの投資には実需がある。
一方で、技術が本物であることと、関連する投資がすべて妥当であることは、別問題だ。将来の売上を先取りしすぎていないか。同じ顧客を見込んだ設備が、各社で重複していないか。便利になった分が、サービスを提供する企業の利益として十分に残るのか。
新しい技術が社会に根付いても、投資した企業が全社そろって成功するとは限らない。むしろ競争が激しいほど、利用者には安く便利なサービスが届き、提供企業の採算は厳しくなる可能性もある。AIを使う側としての期待と、AI関連企業に投資する側としての警戒心は、両立する。
私は、いまのAI市場をそんな目で見ている。
特にメモリ関連の熱気が気になる
なかでも、私がバブル気味ではないかと感じるのがメモリ関連だ。
AIの処理には大量のデータを速く扱う能力が必要で、高性能なメモリへの需要が強い。需要が供給を上回れば価格が上がり、メーカーの利益も増えやすい。この流れ自体には筋が通っている。
ただ、メモリは市況の影響を強く受ける分野でもある。いま不足しているからと各社が設備を増やし、数年後に供給が追いつけば、価格や利益の見通しが変わるかもしれない。株価が好業績を織り込んで高くなっている場合、利益が増え続けても、期待ほどではなかったというだけで株価が下がることもある。
ここで私が確認したいのは、「メモリが必要か」だけではない。
- 現在の価格上昇は、どの程度続く前提なのか。
- 新しい設備が稼働した後も、需要は供給を上回るのか。
- 一時的に増えた利益を、恒常的な利益として評価していないか。
- 設備投資と借入れを増やしても、十分な現金を生み続けられるか。
- 株価には、どこまでの成長が既に織り込まれているか。
「AIに必要だから、この会社の株は必ず上がる」という説明では足りない。必要な製品を作る会社でも、高すぎる価格で株を買えば投資の結果は厳しくなり得る。熱気のある市場ほど、この当たり前のことを忘れやすい。
家計と投資で、私がいま確認したいこと
今回の利上げを受けて、私はまず自分の数字を見直したい。大きな予測を当てるより、手元のお金がどう変わるかを知るほうが先だ。
住宅ローンについては、固定金利か変動金利か、次に金利条件が変わる時期はいつかを確認する。固定金利であれば、今回の政策金利の変更が毎月の返済額へ直ちに反映されるとは限らない。契約書に書かれた条件を基準に判断したい。
生活費は、食費、光熱費、通信費などを前年と比べる。物価のニュースを読んで「高くなった」と感じるだけでなく、自分の家計で何がいくら増えたのかを見れば、対策の順番が決めやすい。
会社では、固定費と入金時期を改めて確認する。景気が弱くなる可能性を考えるなら、見込んでいる売上が遅れた場合にも、何カ月運営できるかを知っておきたい。
投資では、AI関連株の値動きだけを追いかけない。売上と利益に加え、設備投資、借入れ、営業キャッシュフローを見たい。社債なら利回りの高さだけでなく、通貨、償還までの期間、発行体の返済能力を確かめる。「年10%」という数字は魅力的に見えるからこそ、その理由を考える必要がある。
最後に、ニュースの見方も決めておく。日銀の次の判断を考える際には、消費者物価だけでなく、実質賃金、個人消費、円相場、企業の資金繰りを一緒に見る。一つの数字だけで「もっと利上げを」「すぐ利下げを」と決めないようにしたい。
経済を冷やしたくない。それでも物価高を止めたい
私は今回の日銀の利上げを支持する。だが、支持する気持ちは晴れやかではない。
金利が上がれば苦しくなる人がいる。私も借入れや事業への影響を考える。一方で、給与の大幅な増加を期待しにくい60歳の生活には、続く物価高も厳しい。円安と輸入価格の上昇を心配しながら、毎日の買い物をする人は多いはずだ。
そして世界では、AIへの期待を背景に、企業が巨額の資金を集め、半導体やメモリへの投資を競っている。AIの実需を認めながら、その投資が将来どれだけの利益を生むのかは、冷静に見ていきたい。
景気を守ることも、物価を安定させることも大切だ。簡単な正解がないからこそ、今回の利上げの後に何が起きるかを見続けたい。スーパーの値札、毎月の支出、会社のお金の流れ、そして市場の熱気。その全部が、私にとっての経済ニュースである。

